[映画] 『2001人の狂宴』

 ホラー映画ファンなら誰もが知ってる(ホラー映画ファン以外は誰も知らない)スプラッタ映画界の巨匠、ハーシェル・ゴードン・ルイス。1960年代に誰よりも早くスプラッタ映画を手がけ、70年代のフーパーやクレイヴンらが起こしたブームにも大きな影響を与えたルイスの作品は、今なおその歴史的価値を高く評価されている(あくまで歴史的な価値のみ)。
 そのルイスの作品でも、比較的に良作とされる『2000人の狂人』、原題は “2000 Maniacs”。100年前に北軍によって滅ぼされたアメリカ南部の村人が、北部の人間憎さに亡霊となって、村を通りかかった現代の若者たちを虐殺する、という思いつきだけで作ったルイス初期のスプラッタ作品だ。
 『2000人の狂人』に、ストーリーや演出、演技の面で観るべき部分は全く無く(強いて挙げれば、30人くらいしか出てこないのに「人口2000人」という看板一つで「2000人も狂人がいるんだ」と思わせるあたり)、総合的に見てつまらない映画であることは否めない。ただ、ルイス監督のスプラッタにかける情熱は素晴らしく、犠牲者となる男女を手足をそれぞれ四頭の馬につないで引きちぎって殺したり(南部っぽい)、釘を内側に打ち込んだ樽に詰めて丘から転がして殺したり(南部っぽい?)、創意工夫をこらして観客を楽しませようとしていて、それなりに記憶に残る作品ではあった。
 それにしても今思えば、若い男女のグループ(大体七、八人)が殺人鬼のいるテリトリーに迷い込む→一人ずつ色んな方法で殺される→主人公の一人または二人が何とか生き延びる(またはラストで死ぬ)という現代ホラー映画のテンプレートは、既にこの頃には完成していたわけで、やはりルイス監督は凄かったんだと言うべきだろう。作品全体の出来はともかくとして。
 そんな『2000人の狂人』のファン待望のリメイクが、今頃になって登場。題名も新たに、”2001 Maniacs”、邦題は『2001人の狂宴』(一人増えてる!)。21世紀にもなって新しい『2000人の狂人』が出てくるとは思ってなかったが、一応ホラー映画ファンの端くれの身としては、見過ごすこともできまい。主演はロバート・イングランド(フレディの中の人)だし。

2001人の狂宴
ティム・サリヴァン クリス・コービン ロバート・イングランド

2001人の狂宴
ジェネオン エンタテインメント 2006-07-07
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 結論から言えば、割と普通のスプラッタ映画だった。演技も演出も普通にできてるし、スプラッタシーンもそこそこ良くできている。馬に手足をつないで引っ張るくだりもちゃんとある(釘つき樽は無かった気がするなあ)。だが、普通にそこそこできているせいで、逆に原作が持つろくでもなさ、ぐだぐだ感と言った個性が欠落しており、そのせいか、このリメイク版は普通のホラー映画以上のインパクトが無い。僕が『2000人の狂人』を観たときに抱いた嫌悪感は、こんなものじゃなかった。あの旧作では、村人たちが特に演技をするでもなく適当にスプラッタ場面に登場しており、そのとってつけた感が逆に狂人っぽくて良かった。一方この『2001人の狂宴』では、台本通りまともに演じるエキストラを使って、何の違和感も無く観れる出来になってしまっている。それに、脚本には何と主人公VSロバート・イングランドというクライマックスさえ用意されている! こんなストーリーの盛り上がりなど、本物のルイス作品ではまずあり得ないことだ。これだけ観れば、一般人にも無理なく勧められる良心的な出来映えのスプラッタ映画なのだけど、それ故に元の怪作ぶりには遠く及ばないのが残念。(★★★)
 それにしても、スプラッタ映画というジャンルは、ピーター・ジャクスンの『ブレインデッド』がとどめを刺してしまったように思う。あれ以降、進歩がまるで見られない気がするけど、果たしてスプラッタ映画に新たなブレイクスルーは現れるのだろうか。


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