Archive for September, 2006


P・ヴェプファ他『機長の決断』

Sunday, September 24th, 2006

 今は亡きスイス航空(ルフトハンザに吸収された)のパイロット、ヴェプファ氏が綴る「パイロットのお仕事とは?」という内容の本、『機長の決断』を。

『機長の決断』

 いまどきの飛行機ってオートパイロットだけで離発着まで出来るんじゃないの? と素人的には思いがちだが、この本ではいかにそんな考えが甘いか、どれだけの作業が離着陸の裏で行われているか、あるいはなぜ搭乗から離陸まであんな絶望的に待たされるのか、といったことが事細かに描かれている。まあ、15年以上古い本なので今はどうだか分からないけど、少なくとも搭乗から離陸まで死ぬほど待たされる点は今も変わらないようだ。
 この本の著者は相当に几帳面らしく、パイロットやその周辺の職務内容をかなり細かいところまで描いていると思う。その几帳面さが高じて、ことあるごとに事故事例を引っ張り出して「何年何日にボーイング707が高度設定の間違いで山に激突した」とか「インドで着陸空港を間違えて大破した事故があった」とか紹介していたりする。パイロット志望者ならともかく、一利用者という立場で読んでいると、飛行機というものにささやかな不安を感じなくもない。(★★★)
 これとは全く関係ないけど、今からちょっと成田-サンフランシスコ便に乗ってきます。

岩脇一喜『SEは今夜も眠れない』

Thursday, September 21st, 2006

 元銀行のシステム部門の人が15年に及ぶSE生活での体験(主にトラブル)を綴った、『SEは今夜も眠れない』を。

岩脇一喜『SEは今夜も眠れない』

 多分アニメーターとゲーム開発者の次くらいに「眠れない」職業であろう、SEにスポットを当てた本。ではあるが、この著者は、銀行の、しかも国際業務班という海外を飛び回るポジションで、日本の一般的なSEとは一寸異なる代物だ。ブリュッセルやパリに赴き、一秒を争う状況でトラブルに立ち向かう(銀行業務なので間違ったり遅れたりすると億単位の損失が出るとか)のが普通のSEだと思われると、ちょっと困る(それに、日本のSEの多くは金融系みたいに良い待遇を受けていない)。
 まあ、読み物としてはロスの大地震やニューヨークのテロ事件に関わるエピソードがあったりして、それなりに興味深いけれど。読後感がいまいち物足りないのは、せっかく金融系の話なのに結局たいした失敗談もなく、どのエピソードも無難な結末で終わっているからだろう。ベアリングス銀行やエンロン事件と比べるのは酷だが、一億や二億ぐらいの損失を出してさあどうしよう、ぐらいの話は欲しかった。大抵の場合、成功談より失敗談の方が面白いのだから。(★★)

ディーン・クーンツ『ストレンジ・ハイウェイズ1 奇妙な道』

Thursday, September 14th, 2006

 超ベストセラー作家の一人でありながら、同じジャンルにスティーブン・キングという王様が居座り続けているおかげで、三十年来トップに立ちきれないというポジショニングの(主に)ホラー作家、ディーン・クーンツ。その95年頃の中短編集『ストレンジ・ハイウェイズ』三分冊の一つを。

『ストレンジ・ハイウェイズ1 奇妙な道』

 まずは中編の『奇妙な道』。父の訃報を受けて故郷に戻った、落ちこぼれ四十路のジョーイ。そこで昔に封鎖されたはずの道を進むと、なぜか若かりし頃の自分に戻り、少女セレステと出会う。そこでジョーイは過去に防げなかった殺人事件のことを思い出し、やり直すチャンスだと信じて殺人鬼と相対する。という、割と普通にありそうなセカンドチャンスもの。
 ただこの話がちょっとユニークなのは、殺人鬼が悪魔に魂を売り渡した不死身の超人だったり、主人公が死にそうになったら臆面も無く時間が巻き戻ってみたりするあたり。スティーブン・キングもそうだけど、シンプルな話をここまで大げさに膨らませられるのは見事だ。
 あと舞台となるのは、地下で炭坑跡が燃え続けて崩壊しつつある町。こうした町は実在するらしく、写真として見てもなかなかインパクトがある。

Centralia Pennsylvania Photography - Underground Mine Fires burning since 1962 in Centralia PA.

 ついでに収録されている短編は『ハロウィーンの訪問者』。フリーマーケットで悪ガキが買い叩いたパンプキンヘッドが、夜になると……。そんな、変なパンプキンヘッドを買うと大変なことになるという教訓話。短くシンプルで小気味良い短編で、どちらかと言えば『奇妙な道』よりこちらの方が好きだ。
 全体的に捻りが少なく目新しさも無いが(十年以上前の作品集だし)、さすがベテランのベストセラー作家だけあって、構成も文章も安定している。とりあえず無難な海外ホラー小説を読みたい、という人にはちょうど良いラインだろう。(★★★)

ラーメンズ『日本の形:交際』

Saturday, September 9th, 2006

 おなじみラーメンズの”Japan Culture Lab”の、どうやら最新作。今回は、日本における男→女へのアプローチの伝統的作法を、委細漏らさず徹底紹介。レクチャー編15分+実践ドラマ編15分と、約30分もの大作です(ワイヤーアクション有り)。

日本の形:交際(ラーメンズ)(1/3)

日本の形:交際(ラーメンズ)(2/3)

日本の形:交際(ラーメンズ)(3/3)

ジェリー・カプラン『シリコンバレー・アドベンチャー』

Wednesday, September 6th, 2006

 1990年前後、GOというベンチャー会社が颯爽と現れ、ペン・コンピュータと名付けた新世代の製品を開発していた。全然知らなかったけど。その製品のコンセプトは一世を風靡し、IBMやマイクロソフト、アップルもこぞって同様のコンピュータを作ろうとしたと言う。全く聞いたこともなかったけれど。そんな、メジャーになりきれなかったベンチャー会社の設立から終焉までを、創業者自身が語ったベストセラー・ノンフィクション、『シリコンバレー・アドベンチャー』。原題は”STARTUP: A Silicon Valley Adventure”。

『シリコンバレー・アドベンチャー』

 一技術者だったカプランは、コンセプトとハッタリだけで投資家から数百万ドル集めてGOを設立。以後、IBMとの提携やメディアへの露出で注目を集め、マイクロソフトと火花を散らしたりハード部隊をスピンアウトしたりしつつ、IBMがあまり協力してくれないのでAT&Tに提携先を変え、そうこうしているうちにほとんど収益を上げないままAT&Tに合併されて、結局プロジェクトも志半ばで自然消滅してしまった、という話。
 あくまで創業者による経営サイドからの視点なので、技術的なウェイトは皆無だ。それよりも資金調達(「あと×日以内に追加投資を引き出さなきゃ、給料が払えなくなって倒産だ」)や他社との調整(「マイクロソフトが各ベンダーに圧力をかけてる。一体どうすればいいんだ?」)、経営戦略(「うわ、AT&Tはアップルのニュートンで行くらしいぞ。もうおしまいだ!」)といった話がメイン。
 まあ全体的には負け戦だけど、割とあっけらかんにユーモア混じりで描いているので、それほど悲壮感は無く、むしろ「さて、次は何の会社を作ろう」みたいな終わり方で、爽やかな読後感がある(実際、このジェリー・カプランが次に設立した会社onSaleは成功して、オークションサイトの古株の一つとなっている)。ただ冷静になって考えてみると、6年間で7500万ドルの投資を飲み込んでおきながら、ほとんど製品らしい製品を出さなかったわけで、これをアメリカという国の懐の広さと見るか、単なるIT投資バブルだったと見るかは微妙なところ。(★★★★)