ジェリー・カプラン『シリコンバレー・アドベンチャー』

 1990年前後、GOというベンチャー会社が颯爽と現れ、ペン・コンピュータと名付けた新世代の製品を開発していた。全然知らなかったけど。その製品のコンセプトは一世を風靡し、IBMやマイクロソフト、アップルもこぞって同様のコンピュータを作ろうとしたと言う。全く聞いたこともなかったけれど。そんな、メジャーになりきれなかったベンチャー会社の設立から終焉までを、創業者自身が語ったベストセラー・ノンフィクション、『シリコンバレー・アドベンチャー』。原題は”STARTUP: A Silicon Valley Adventure”。

『シリコンバレー・アドベンチャー』

 一技術者だったカプランは、コンセプトとハッタリだけで投資家から数百万ドル集めてGOを設立。以後、IBMとの提携やメディアへの露出で注目を集め、マイクロソフトと火花を散らしたりハード部隊をスピンアウトしたりしつつ、IBMがあまり協力してくれないのでAT&Tに提携先を変え、そうこうしているうちにほとんど収益を上げないままAT&Tに合併されて、結局プロジェクトも志半ばで自然消滅してしまった、という話。
 あくまで創業者による経営サイドからの視点なので、技術的なウェイトは皆無だ。それよりも資金調達(「あと×日以内に追加投資を引き出さなきゃ、給料が払えなくなって倒産だ」)や他社との調整(「マイクロソフトが各ベンダーに圧力をかけてる。一体どうすればいいんだ?」)、経営戦略(「うわ、AT&Tはアップルのニュートンで行くらしいぞ。もうおしまいだ!」)といった話がメイン。
 まあ全体的には負け戦だけど、割とあっけらかんにユーモア混じりで描いているので、それほど悲壮感は無く、むしろ「さて、次は何の会社を作ろう」みたいな終わり方で、爽やかな読後感がある(実際、このジェリー・カプランが次に設立した会社onSaleは成功して、オークションサイトの古株の一つとなっている)。ただ冷静になって考えてみると、6年間で7500万ドルの投資を飲み込んでおきながら、ほとんど製品らしい製品を出さなかったわけで、これをアメリカという国の懐の広さと見るか、単なるIT投資バブルだったと見るかは微妙なところ。(★★★★)


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